「じゃあ、また明日」
         
〜抱きしめたくなる10のお題 より


11月開催の高校アメフトの秋季関東選手権を目指す、
各地区の予選もいよいよの大詰めに迫りつつあり。
今年も今年なりの激戦を制した実力校の精鋭たちが、
数多の好敵手らを凌駕し、踏み越えて、
次の高みへと駆け登ってゆく。

 『結果データだけでなら順当に見えっかも知れないけど、
  結構シビアだよな、今年も。』

昨年の出場がほぼビギナーズばかりという陣営でだっただけに、
勝っても負けても“奇跡”がらみのコメントを、
シニカルに並べる大手のスポーツ紙があるのがムカつくか。
根気の要る毎日の練習で地道に練り上げられた経験則レシーバーのモン太が、
キーキーと不平を垂れていたけれど。
長くて密な試合が終わった瞬間は、
そういったピッチの外からの評価なんて、
どうでもよくなるから不思議なもので。
評価だけじゃない、
試合中は親の仇みたいに憎々しかった相手チームの皆さんも。
競り合った相手であればあるほど、

  ―― この俺を負かしたんだから、
     次も勝たなきゃ承知しねぇぞ

そんなエールで背中を叩いてくれる、
一番の理解者同士となるのがやっぱり不思議。
そんな風にぽろりと零したところが、

 『別に不思議ってほどのこっちゃあなかろうよ。』

口惜しいという想いを払拭するほど、
ああこいつに負けたんならしょうがねぇかと、
相手を“強い奴だ”と認めた瞬間だから出来ること、と。
ムサシさんがあっさりと教えてくれて。

 『だからして、
  阿含あたりとは握手やハイタッチさえ、
  なかなか出来んかったわけだ。』

 『ははぁ…。』

少なくとも向こうさんからは、
負けることがあってもしょうがないかという
納得に至ってない訳ですね。
(う〜ん)

  そしてそして

今日のこのスタジアムでも、
来期の再会が楽しみな好敵手が生まれの、
次で負けたらただじゃあおかんというエールを贈られのして。
今はただただ、
試合中、緊張感で張り詰めまくっていたあちこちが、
ゆるやかに弛緩してゆくのへと感じ入ってるひとときだったりし。

 「…?」

観客の皆様がぞろぞろと帰ってゆくのとは分けられた通路。
ここへと来るのに使った、
チーム専用のトレーラーが待っている出口へ、
そろそろ向かわなきゃいけないのだが。
今の内に とっとと動かないと、
疲れに負けて立ち上がれなくなる恐れだってあるのだが。
熱気を冷まさせてくれる、
夕刻の涼しい風の中にいるのが何とも心地よく、
ついつい、グラウンドを見渡せる観客席の一角に座ったまんま、
試合の余韻を堪能しているデビルバッツのちみっ子コンビだったりしたのだが。
そんな片や、瀬那の手元で携帯が着メロを奏で始めて。
何だろかと出て見れば、
そのまま耳から引きはがしたくなる怒声が轟いた。

 「……蛭魔さんか?」
 「うん。早くこいって。」

置いて帰るぞとの催促なのは、出る前から判っていたが。
ああそろそろ黄昏が始まるなぁと、
西の空を見やっていたもんで、つい。

 「秋って陽が短いっていうのも忘れてたなぁ。」

冬場のように、
まだ4時5時なのに真っ暗…という短さじゃあないが、
夏場のように、
日没後もいつまでも曇天のような明るさが満ちて…は いない。
茜色の西日が没すると、
そのまま一気に宵闇がやって来るのが くせもので。
立ち上がらなきゃ、帰らなきゃ。
思いはすれど、腰が重い。
ああとうとう疲労がやって来たのかも、
眠ったらいかんぞ、寝たら死ぬぞと、
どこの遭難登山者ですかというやりとりをごにょごにょと交わしておれば、

 「あ、いたいた。」

背後から軽快なお声がかかり、
え?と思う間もなくの、あっと言う間に ひょ〜いっと。
脇に手を入れられの軽々と抱え上げられている。

 「ふあっ?」
 「な、何なにっ?」

何だなんだと慌てふためきつつ背後を見やれば、

 「何だじゃないでしょ?」
 「え? 桜庭さん…と、ししし進さんっ?」

見慣れたお顔とこんにちは。
(苦笑)
妖一が癇癪起こしているぞと、これはセナにだけ囁いてから、
恐らくは顎で使われたらしい桜庭さんが苦笑をし。
レシーバー同士とはいえ、
体格(特に身長)に恐ろしいほどの格差があるモン太を、
そりゃあ軽々 立ち上がらせると、

 「間に合わなかったなら、王城のバスで市内まで送ってってあげるけど。」
 「いやいやいや、それはちょっと…。」

何たって…次の試合のお相手だ。
彼らもまた、今日、このスタジアムで試合をこなした身だから、
今は休みたい一念じゃああろうけど。
それでも…すぐさま正面切って戦うこととなる、
そんな相手との同座は落ち着けまいに。

 「じゃあ、急ぐんだね。」

ほれほれと背中を叩いてくださる桜庭さんといい、

 「あのあの、進さん。/////////」

そろそろ降ろしてくださいませんかと、
赤くなったセナが言い出すまで。
足が宙に浮いているほどの高い高いを維持していた進さんといい。
すっかりと回復しているように見えるのが物凄い。

 “それも、結構な死闘だったのに。”

高さと大きさで堅い守備をし通した巨深ポセイドンを相手に、
真っ向からの激突を繰り返し合うという、
過激な競り合いの末に負かした迫力のゲームを
午前中にこなした彼らの筈で。
だってのに…もしかしてあれって
昨日のお話だったのかなぁと思わせるほどの回復振りであり。

 「じっとしていると乳酸がたまる一方だ。」

激しい運動をした後は、
クールダウンに柔軟なり軽い駆け足なりをし、
体をほぐさないといけない。
アメフトに限らない基本中の基本であり、
そうでしたよね、すいません、と。
降ろしてもらいがてら(?)うっかりぶりを謝ると、

 「……。(頷)」

短く“よし”と頷いて見せてから、
あらためて…大きな手がセナの頭にポンと乗る。
和みからだろう、目許がややたわんでおいでなので、
見上げてたこちらまで、
誘われて“うふふvv”なんて笑い返してしまっており。

  よく勝ち残ったな
  はい、頑張りました
  それでなくては、こちらが困る
  ええ、次でようやくですものね

今だってこうして面と向かって話をしている。
今までだって、
毎朝のランニングで時々すれ違う奇遇の下とか、
試合会場が同じだったからなどといって、
顔合わせが出来なかった訳じゃあない二人だけれど。
それでもあのね、
対戦という条件下で、真っ向から睨み合い、
全力を出し合う当たり方ほど
興奮する“向かい合い”はないって知ってるから。

  今、こうして向かい合っているのに、
  それよりもっと、来週が待ち遠しくて仕方がない。

関東大会では、もっともっとという強敵たちが待ち受けている。
昨年、デビルバッツが初戦で当たった関東最強のドラゴン軍団。
神速のインパルスを始めとする絶対的な身体能力を武器に、
死角なしとされて来た天才、金剛阿含と、
その兄で、潰えぬ努力と静かなる闘志の人、雲水とが率いる最凶軍団が、
山伏さんなどパワー自慢だったバックスこそ不在ながらも
機動力は相変わらずに絶品と評価されており。
白秋ダイナソーだって、看板プレイヤーはまんま遺留している恐ろしさ。
そんな色々が既に耳に届いており、
決勝まで進めたのだから、
そちらへ駒を進められることも既に決まっているのだけれど。

  それとこれとは別ですものね、と

にっこり微笑ったセナだったのへ、
進さんの大人びて精悍な面差しが、ふと、
真摯なそれへと堅さを増した。

 「………え?」

にっこりと微笑ったつもりだったのだけれど、
進さんには
“にやり”とかいう挑発的な笑い方に見えたのかなぁ?
そりゃあそりゃあ、来週の試合では真っ向から当たるのだし、
ふにゃりと甘えたように微笑ってる場合じゃあないのだけれど。
そりゃあ確かに
“簡単には負けたりしません”ていう気持ちからの
お顔には違いなかったけれど。
離れかけてた大きな手が、中途で止まり、
セナくんの二の腕へと延べられて、でも。
触れる直前でひたりと止まる。

 “……? えっと?”

例えて言うなら、結界とかバリアとか。
何か目に見えない障壁でもあるのかと思わせるよな、
そんな制止の掛け方だったのへ。
ますますのことキョトンとしたセナへと、

 「困ったな。こらえるのがこうも厳しいことだとは。」

随分と低められたお声がそうと囁いたのが、

 「あ………。//////////」

おやや、早めの夕焼けでも始まったのかしらと思わせたほど、
誰かさんの頬っぺを真っ赤にする。
触れてそのまま、懐ろに掻い込みたいが、
それこそ そういう場合ではない者同士。
たった今、来週の決勝で相まみえると決まったばかりだってのにと、
それを思い出してのこと、はっと手を止めた進さんであったらしく。
そしてまた、そんな進さんだったこと、
何がどうしてそんなお言いようを?、と、
自分の頭でぐるぐると再生してみての、その結果が出たものか、


 「あ、えと、あのあのえとその。////////」


ますますのこと、真っ赤っ赤になってしまったセナくんだった辺り。

 「セナくんてさ、
  微妙にトロいというか反応が遅いよね。
  俊足が過ぎて光速な分、
  気持ちは随分と置いてかれちゃうのかな。」

 「…知らねぇよ。」

遅いなぁ本当に置いてこうか、
だがだが、
エースを選りにも選って王城のバスで送らせるワケにもいかんしと、
様子を見にきた誰か様たちが、
何やってるかなと呆れつつ、
出るに出られなくなったのは言うまでもなく。


  どちらも頑張ってくださいね、来週の決勝戦。




  〜Fine〜  10.10.13.


  *巨深ファンの方、すいません。
   でも、プレイオフで楽勝で3位の座をせしめて、
   11月開催の関東大会では大暴れすると思われます。

  *原作に沿ったお話を書くのに、
   とうとう原作を読み返さにゃならなくなりました。
   巨深という学校名が出て来なかったからでして、
   水町くんとか筧くんは覚えていても、
   もうそんなになっているのね、おばさんの記憶力。(ううう)
   それもあるけど、
   いかに偏ったキャラばかり弄ってるかが、
   判るというものですな。
(苦笑)


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